結婚を考えた相手がいとこだったら?
今回は、少しシリアスな話題ですが、いとこ同士の結婚について取り上げます。現実に、いとこ同士で結婚を決断しようとしたとき、どのようなことが問題となるのか、わかる範囲で説明していきます。
なお、医学や遺伝学的な面については、遺伝相談を行っている国の外郭団体について紹介しますので、必要に応じて自ら連絡をとり、専門家の意見をきいてから、判断するようにしてください。この記事はすでに発表された論文などを参考に書かれたものであり、あくまでも一般論です。いとこ同士の結婚は、どのくらいいるのか?
まず気になる点として、日本にいとこ同士で結婚した夫婦は、どのくらいの比率で存在しているのでしょうか。この点について調査した資料のうち、おそらくもっとも入手しやすいものとしては、上記の論文があげられます。
「配偶者選択の現状…」は、当時の厚生省人口問題研究所の機関誌に発表されたもので、全文をPDFで読むことができます。ただし、調査は1983年に行われたものであり、いまから30年以上むかしのデータに基づいていますので、現在と事情がことなる部分もたぶんにあるでしょう。その点は、注意してください。63組に1組がいとこ同士の結婚
この調査では、「なぜそのひとを結婚相手に選んだのか(=配偶者選択といいます)」について、地理的な条件や学歴・職業・宗教など様々な面からの調査が行われました。
そのなかに、いとことの結婚ふくめた「近親婚(血縁の近い者との結婚)」に関する質問も含まれていたのです。調査した地域は、北海道旭川市、宮城県多賀城市、山梨県身延町、愛知県岡崎市、兵庫県川西市、長崎県福江市(現五島市)の6か所で、合計9,225世帯から回答が得られた結果、いとこ同士の結婚が全体に占める割合は、1.58%でした。 つまり、63組に1組の夫婦が、いとこ同士の結婚だったわけです。どうでしょうか。意外と多いことに驚かれたのではないでしょうか。基本的に、いとこ同士の結婚は減少傾向
この調査では、結婚した時期も対象者に回答させています。その結果、1949年までに結婚したグループにおけるいとこ同士の結婚の割合と、1972年から1977年にかけて結婚したグループにおける割合を比較した場合、7分の1に激減しています。1972年から1977年に結婚したグループにおけるいとこ同士の結婚の割合は、0.56%であり、約180組に1組まで減少しているのです。
いとこ同士の結婚がなぜ減ったか
いとこ同士の結婚が減った理由は、どのようなことが考えられるでしょうか。この調査では、具体的な理由まではあきらかにしていませんが、2つのヒントに触れています。
ひとつは、交通の便がよくなり、行動範囲がひろがることで、結婚相手を探すエリアが必ずしも近隣にかぎらなくなったことです。 また、もうひとつは、幼なじみといった地域に根ざしたつきあいから、職場や学校での出会いの比率が増加していったこと。この2点が、いとこ同士の結婚が減少した遠因といえるでしょう。地域による違い
この調査から見えてくるものとして、地域により、いとこ同士が結婚した夫婦の割合に大きな差がある点も重要です。明治以降に全国からの入植者により開拓された旭川市と、離島の福江市(現五島市)では、いとこ同士の結婚の比率は、6倍以上のひらきがあります。周囲が受け入れるかどうか、地域で温度差があることが、うかがえます。
かなりふるい論文とはいえ、いとこ同士の結婚の実態について調査した結果を紹介したわけですが、つぎに、日本の法律ではどのような扱いとなっているのでしょうか。
結婚と婚姻
結婚についての要件は、民法にさだめられています。より正確には、民法では結婚を「婚姻」と呼びます。結婚も婚姻も、もともと日本にはなく、平安時代に中国からはいってきた言葉ですが、「婚姻」には、親族となる(親族が増える)というニュアンスがつよく含まれており、明治になるまでは、こちらが主流でした。
現在は、おもに法律で使われます。結婚によってできた夫や妻側の親族を「姻族」と呼びます。ひとのつながりを重視している、法律の視点らしい言葉えらびといえるでしょう。民法の規定
いとこ同士の結婚にかんする民法の規定として、重要なのは民法第734条です。民法第734条第1項には「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。
ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない」とされています。直系血族?傍系血族?3親等?と意味のわからない言葉に首をかしげるかたもいるでしょう。 さきほど触れた「姻族」もふくめて、順番が逆になりますが、どういう意味か、次で説明します。「親族」の範囲、「親等」の考えかた
民法第725条は「一 六親等内の血族、二 配偶者、三 三親等内の姻族」を親族の範囲とさだめています。血族とは、(1)同じ先祖をもつ血縁関係にある者(2)養子縁組により、(1)と同じ扱いをうけることになった者をいいます。さきほどの第734条でいう「直系血族」とは、親子や祖父母・孫についていいます。「傍系血族」とは、兄弟姉妹などをいいます。姻族とは、婚姻によってできた親族をさすのは、すでに説明したとおりです。
また、法律は血縁の濃さを考える尺度として「親等」という考え方を導入しています。父母は1親等であり、兄弟姉妹や祖父母は2親等ということになります。いとこはなににあたるの?
では、今回のテーマである「いとこ」は、どういう扱いとなるのでしょうか。すでに紹介した親族・親等図をみればわかるとおり、傍系血族の4親等となるため、結婚が禁止される範囲ではありません。法的にはまったく問題ないということになります。
現在の法制度上の問題
いとこ同士の結婚について法的に問題がないことは説明しましたが、以前から現場で問題になっていることがあります。
結婚しようとするふたりの血縁関係などをチェックする際、親がいわゆるシングルマザーで認知されていない場合、父の名前はのこりませんから、いとこどころか結婚したい相手が実の兄弟姉妹であっても、戸籍の記録では、わからないのです。 血縁関係はあるが、法律上は「赤の他人」です。小説やマンガに出てきそうな話ではあるものの、これ以上の確認はできないのが現状です。今後、法律の改正などにより、血縁関係の確認のしかたが見直されたりする可能性はあります。 ばくぜんといとこや血縁の近い相手と結婚を考えた交際をされているかたは、少し注意しておくようにしましょう。いとこ同士の結婚が民法以外の法律に与える影響は?
いとこ同士の結婚は、婚姻届けが受理されることで有効に成立するため、とくべつな制約をうけることはありません。これは、民法以外の法律においても同様です。
外国でのいとこ同士の結婚の扱い
いとこ同士の結婚について、日本の法律での扱いは説明しましたが、外国での扱いはどうなのでしょうか。上記はwikipediaから引用したものですが、青が法律でいとこ同士の結婚を認めている国・地域です。その他の色は、法律で禁止されていたり、特別な許可を必要とする国や地域です。
じつは、血縁の近い男女の結婚について、どの範囲を禁止とするかは、一律ではありません。たとえば、ドイツやイギリスでは、いとこ同士の結婚どころか、おじ・めい、おば・おい間の結婚を禁じていません。逆に、日本では問題とならない養子同士の結婚が、血縁関係がないにもかかわらずフランスでは禁止されます。